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ゴールデンレトリバーは遺伝的に2つの系統をもつ単一犬種
日本におけるゴールデンレトリバーはその名の通りゴールドの被毛が一般的ですが、最近は毛色の薄いクリーム色のゴールデンを目にすることが増えました。一般的にそれらは「イングリッシュ(クリーム)ゴールデン」と呼ばれていますが、果たしてゴールデンには2種類いるということでしょうか?
 ゴールデンレトリバーはFCI(国際畜犬連盟)で単一犬種として登録される、遺伝的に一つの犬種です。イングリッシュ・ゴールデンという用語は、KC(ブリティッシュケンネルクラブ)の品種基準によって繁殖されたゴールデンに対し、主に北米において使われる呼称です。
 一方アメリカでは、AKC(アメリカンケンネルクラブ)の品質基準に基づき繁殖が行われているため、ごく最近の遺伝子系統がヨーロッパの犬舎から受け継がれた犬を区別するためにイングリッシュゴールデンと呼んでいます。
 つまり、ゴールデンにはKC基準により主にヨーロッパやオーストラリアで受け継がれた系統と、AKC基準で主に北米で受け継がれた系統の2つの遺伝的系統があるということです。ちなみに欧州やオーストラリアにもゴールドやライトゴールドの被毛をもつゴールデンがたくさんいますが、彼らはクリーム色のゴールデン同様、単にゴールデンレトリバーと呼ばれています。

欧州では犬の健康と福祉に関する意識が高く、各国のゴールデンレトリバークラブでは伝統的にこの犬種特有の遺伝性疾患への取組みが厳格で、ブリーダーに対しては繁殖する親犬の遺伝的形質について厳しい基準を課してきました。その結果、相対的に健康的なゴールデンが多いと考えます。
 一方、アメリカでは外形的価値を優先した商業主義的傾向が強く、ドッグショーにおける優秀な血統の遺伝子を受け継ぐため、狭い遺伝子プールでの交配が繰り返され、遺伝性疾患以外にも近交弱勢の兆候が表れるようになったのではないかと考えます。
 つまり、2系統のゴールデンに見られる健康状態の差は、両系統の遺伝的な特質ではなく、欧州とアメリカの繁殖基準の厳格さの違いに因ってもたらされた結果と考えるのが妥当で、決して遺伝学的にイングリッシュタイプがアメリカンタイプより健康であると考えるべきではないでしょう。

イングリッシュとアメリカンのハイブリッドタイプについて
 前述の通りゴールデンには容姿の異なる2つの系統がありますが、遺伝子的には単一犬種ですので、イングリッシュ(クリーム)タイプとアメリカンタイプの掛け合わせ(ハイブリッド)によって産まれたパピーも純然たるゴールデンレトリバーです。では、ハイブリッドタイプのゴールデンにはどのような特質があるのでしょうか。
 イングリッシュ、アメリカンを問わず、狭い遺伝子プールでの交配を続けると、近交弱勢*1の傾向がみられるようになり、強健性、発育性などの能力が低下します。やがて犬種や血統に特有の遺伝性疾患が発現するようになります。
 この点で、遺伝的に遠い関係にあるイングリッシュタイプとアメリカンタイプのゴールデンを掛け合わせることは、犬種としての遺伝的多様性を保つことに繋がり、より生活力の優れた個体を生むと考えられます。
 弊舎ではこうした観点から、イングリッシュタイプ・アメリカンタイプについては、両親犬の血統特有の遺伝性疾患をもたらす遺伝因子情報を十分に考慮し、各々の血統の特徴を追求する交配に努めます。
 それと同時に、遺伝的に遠い関係にある二つのタイプの交配によって、種としての健全性を高めるハイブリッドタイプのゴールデン作出にも積極的に取組みます。