STORY

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ヒトと共に

1970年代アメリカでは、人と動物が共に生活し、触れ合うなかで生まれる相互作用についての科学的な研究が盛んになった。こうしたアプローチは「人と動物の絆(=Human Animal Bond;HAB)」と呼ばれ、双方の幸福・福祉を模索する概念として確立された。

 そもそも犬が人の伴侶となったのは、およそ2万年ほど前、オオカミの仲間の一つであった彼らが、人との共同生活の道を選んだ時にさかのぼる。以来彼らは際だって緊密な信頼関係を我々との間で築いてきたが、それはなぜなのか。犬には独特の能力があるからだ。

 元来、オオカミの仲間は社会性が高い。だから子犬が社会に適応しようとする時期を人と共に暮らすことで、自然と人に寄り添って生きる習性を身につけていく。また彼らは、体や表情で多くのコミュニケーションを図ることができる。尻尾を横に振りながら頭と全身を低くし、耳を引いて頭にぴったりつけ、飼い主に擦り寄り、飼い主の手や顔、耳を舐めるなど、豊かな愛情表現を持ち合わせているのだ。さらに、彼らは人の意思を理解する能力に長けている。最近の研究では、人の視線で意味を感じ取る視覚認知能力において、犬はチンパンジーを超える能力があることが明らかとなった。

 こうした犬の特殊な能力やコンパニオンアニマルとしての歴史を背景に、近年のHABの活動は、医療従事者が主導しリハビリテーションや精神障害、情緒障害などの治療に動物を参加させる医療行為としての動物介在療法(= Animal Assisted Therapy)や、ボランティアらのもとで動物を連れて老人福祉施設や児童福祉施設を訪問し、動物との触れ合いを通じて精神面・肉体面の健康向上や癒やし効果を期待するレクリエーションとしての動物介在活動(= Animal Assisted Activity)、子供の情緒発達に動物を活用する動物介在教育(= Animal Assisted Education)へと広がり、我々の健康で豊かな暮らしの支えとなっている。